金融政策とは?

画像: 日本銀行(Wikipedia)
金融政策とは、中央銀行が行う経済政策のひとつであり、もっとも重要な景気調整政策のひとつです。
日本銀行は、わが国の中央銀行として、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資するため、通貨および金融の調節を行うこととされています。(日本銀行法第1条、第2条)
〜中略〜
こうした中央銀行が行う通貨および金融の調節を「金融政策」といいます。
早速まとめてみましょう。
✅金融政策の目的
経済発展と雇用を確保して国民を豊かにする
✅金融政策の方法
通貨の量を調節して物価の安定を図る
金融政策は景気に大きな影響を受けます。
平成バブル崩壊以降の日本がデフレ不況に陥ってしまった理由も、実は大部分がこの金融政策の失敗によるものでした。
私たちは金融政策を理解する事で、日本経済への新しい視点が生まれます。
株式投資や不動産投資などの資産運用を考える方はもちろんですが、未来への漠然とした不安感をお持ちの方も金融政策の観点を持っていて損はありません。
それでは、金融政策について具体的に解説しましょう。
通貨と物価
なぜお金の量をコントロールする事で物価を調節できるのでしょうか?
答えはシンプルです。
物価(モノの価値)は
物と通貨量のバランスで決まる
これだけです。
これを単純化して解説します。
【仮定】
世の中にりんご1個と1万円が存在し、りんご1個の価値=1万円である。

それから1年後に、りんごが10個に増産されました。

この時、お金の量が変わらなければ、りんご1個あたりの価値は千円にまで低下する事になります。
生産技術の向上によってりんご一個の価値は10分の1に下がってしまいました。

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このように、世の中の物の量と通貨の量のバランスによって、物価は常に変動するのです。
りんごの例のように、生産技術の発達にともなって通貨の量を増やさなければ、物の価値は下がってしまいます。
これがデフレーションです。
【デフレの原因とは?】わかりやすく解説
金融政策は、経済がデフレやハイパーインフレによって停滞しないように中央銀行がおこなうべき、極めて重要な政策なのです。
緩和と引き締め
金融政策には、通貨量を拡大させる金融緩和と通貨量を縮小させる金融引き締めがあります。
✅金融緩和
通貨の量を拡大させる金融政策
主に不況期におこない景気を刺激します
✅金融引き締め
通貨の量を縮小させる金融政策
主に好況期におこない景気を冷まします
次は、通貨量を調節する金融政策の手法を大きく2つに分けて解説します。
①政策金利の調節
一つ目は、※政策金利を操作することによって世の中に出回る通貨の量を調節する方法です。
※政策金利とは、中央銀行が一般の銀行(市中銀行)に融資する際の金利の事。
一般の銀行が民間に貸し出す際も、この政策金利が元になります。
金利の操作によって通貨流通量(マネーストック)を調節する金融政策は、世界各国で古くから行われてきました。
その為、伝統的金融政策と呼ばれます。
この政策金利の調節によってマネーストックが変動するメカニズムは以下のような経路をたどります。
✅金利の引き下げによる金融緩和
①中央銀行が政策金利を引き下げる
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②市中銀行が民間に貸し出す金利が低下する
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③民間企業や個人の借入が活発化する
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④世の中に流通する通貨の量が拡大する
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⑤物価が上昇して消費が拡大する
市中銀行が民間企業への貸し出しの金利を引き下げれば、企業にとっては借入が容易になります。
結果的に、民間企業は借入を増やし投資を活発化させます。
これによってマネーストックは拡大して、景気が拡張するのです。
これは、逆のパターンでも同じです。
景気を冷ましたい場合には、政策金利を引き上げる事によって民間への貸し出しをしぼり、マネーストックを縮小させるのです。
政策金利の上下が経済に与える影響をまとめると、以下のような関係となります。

国内景気が過熱した時には政策金利を引き上げて、景気を冷まします。
✅ゼロ金利政策について
ここで1999年の3月に実施されたゼロ金利政策について触れておきます。
バブル崩壊後の長引くデフレ不況から脱却する為に、日本銀行は超低金利政策を実施しました。
これをゼロ金利政策といいます。
しかし金利をゼロ近辺まで持っていく金融緩和政策を実施したにも関わらずに日本はデフレから脱却する事は出来ませんでした。
そうして従来の金利を調節する方法に加えて新しく導入した方法がマネタリーベースの拡大による金融緩和政策です。
②マネタリーベースの調節
マネタリーベースを単純化して言えば
世の中に存在する通貨の合計
です。
※詳しくは下記リンク記事をご覧ください。
【マネタリーベースとは?】図解でわかりやすく解説
マネタリーベースの拡大とは
中央銀行が通貨を発行して市場に供給する
ということです。
日本でマネタリーベースの拡大が本格的に実施されたのは、2013年から黒田日本銀行総裁よって導入された『量的・質的金融緩和』です。

画像:黒田東彦日本銀行総裁
量的質的金融緩和では、これまでほぼ横ばいだった通貨供給量(マネタリーベース)を急拡大させました。

量的緩和政策は、金利を上下して市場への貨幣量を調節する伝統的な金融政策とは違い、通貨を発行して金融機関に供給してきます。
これら、従来の金融政策の方法にとらわれない景気刺激策は非伝統的金融政策と呼ばれます。
✅国債の買い入れ
とは言え、中央銀行がお金を発行したからと言ってそのまま世の中にお金をバラまく事は出来ません。
その為、公開市場操作と呼ばれる日本銀行が発行したお金を市場へ供給する方法があります。
マネタリーベースの拡大の際に使われるもっともポピュラーな方法は
日銀が民間の金融機関から
国債を買い入れ、対価として通貨を供給する
という方法です。
銀行や保険会社などの民間金融機関は、資産の一部を国債によって運用し、金利で利益を得ています。
その金融機関が持つ国債を、日本銀行が買い取る事で、発行した通貨を金融機関に供給していくのです。
これは、国債の買いオペレーションと呼ばれる手法で、アベノミクスによる量的質的金融緩和でも実施されています。
つまり買いオペとは
日本銀行が金融市場から国債を買い入れる事で通貨を市場に供給する方法
という事です。
買い入れには国債の他にも、ETF(上場投資信託)やCP(コマーシャルペーパー)なども対象となります。
また反対に、金融引き締め政策の場合は資金を市場から吸収する売りオペレーションが行われます。
金融緩和の副作用
景気刺激策として採用される金融緩和のただ一つの副作用はハイパーインフレーションです。
そもそも、インフレを作るために金融緩和をおこなうのですが、行き過ぎたインフレは経済停滞を招きます。
✅ハイパーインフレーションの定義
【国際会計基準】
インフレ率が3年間で累積100%(3年で物価が2倍)
これまでに説明してきた通り、物価は物とお金の量のバランスで決まります。
ハイパーインフレとは、モノの供給量に対してお金の量が大きくなり、物価が高騰しすぎてしまう事です。
そうなってしまえば、デフレと同様に人々は困窮してしまいます。
そこで金融緩和によって全国民が雇用を確保できるインフレ率に導き、なおかつハイパーインフレを抑制する方法としてインフレターゲット政策が採用されました。
✅インフレターゲット(物価目標)
インフレターゲット(物価目標)は、インフレ率の目標値を設定することで過度なインフレーションを抑制します。
過度なインフレとは、NAIRUと呼ばれる完全雇用(失業率2%〜2.5%)を実現する為のインフレ率を超えるインフレの事を指します。

日本ではこのナイルはおよそ2%のインフレ率と推計されており、アベノミクスによる大胆な金融政策においても、インフレ目標は2%に設定されました。
つまりインフレ目標2%とは、2%のインフレ目標を達成するまでは金融緩和を行い、2%を超えるインフレ率になった時に、金融政策を引き締めに転換させるのです。
インフレターゲット設置による金融緩和は、経済をマイルドなインフレ率に持っていく事で、好循環をつくる事が出来ます。
金融緩和によってマイルドなインフレーションを作る政策を、リフレーション政策と言います。
ここで、マイルドなインフレが経済の好循環を作る理由を説明します。
インフレーションとは世の中の需要がお金よりも物に向かっている状態です。
つまり、消費が活発になるのです。
さらに
消費が活発になる=民間企業の利益が上がる
という構図が出来上がり、企業の売上が上がることで人々の仕事や所得が増えるのです。

画像:岩田規久男元日銀副総裁講演資料をもとに筆者作成
インフレとは、モノの価値が上昇する一方で、お金の価値が目減りしていく現象です。
つまり、価値が目減りするお金を消費し、資産や商品、サービスに交換する事が合理的になるのです。
これな、マイルドなインフレーションが作る経済の好循環の構図です。
このインフレターゲット政策が日本で初めて導入されたのは、2012年から開始された経済政策アベノミクスです。
※詳しくはリンク記事を参照ください。
【アベノミクスとは?】成果と課題をわかりやすく解説
アベノミクスでは、2%のインフレ目標を掲げて開始されました。
残念ながら、2020年7月現在もこのインフレ目標は達成できていません。
日本における金融政策
日本は1990年代のバブル崩壊以降、長引く不況に悩まされてました。
この長期経済停滞期は失われた20年と呼ばれます。
【失われた20年とは?】わかりやすく解説
この経済失政の大きな理由の一つが、日銀による金融政策の失敗です。
それには、理由が大きく2つあります。
✅バブル絶頂期に過度な金融引き締め政策を実施したこと
✅間違いを認められずに、引き締め政策が続けられたこと
✅日銀法が改正されて、日銀の独立性(権力)が強化されたこと
平成バブルでは、土地や株式の資産価格の高騰が止まりませんでした。
この時に、バブル潰しとしてさまざまな政策が実施されました。(詳しくは『失われた20年とは?』をご参照ください。)
土地や株式のみならず、経済全体を強烈に冷ましてしまう強烈な金融引き締め政策が当時の日本銀行によって実施されたのです。

画像:当時日本銀行総裁 三重野康元氏(ダイヤモンドオンライン)
さらに日本の金融政策は1998年に改正された日本銀行法によって方向が狂ってきます。
この頃、大蔵省の汚職事件に端を発した省庁権力の縮小がおこり、大蔵省は財務省と金融庁にわかれる事となりました。
大蔵省接待汚職事件(おおくらしょうせったいおしょくじけん)とは、1998年(平成10年)に発覚した大蔵省を舞台とした汚職事件である。
Wikipediaより引用
この流れの中で、日本銀行も大蔵省からの独立性を高める為に、日本銀行法が改正されました。
この日銀法の改正の問題点は、日銀の権力を強すぎるまでに高めてしまった事です。
この時、日本政府は日本銀行総裁の罷免権を手放してしまったのです。
それは、この改正日本銀行法の第25条によって決められました。
第二十五条 日本銀行の役員(理事を除く。)は、第二十三条第六項後段に規定する場合又は次の各号のいずれかに該当する場合を除くほか、在任中、その意に反して解任されることがない。一 破産手続開始の決定を受けたとき。二 この法律の規定により処罰されたとき。三 禁錮以上の刑に処せられたとき。四 心身の故障のため職務を執行することができないと委員会(監事にあっては、委員会及び内閣)により認められたとき。
この日銀法の改正によって、日銀が日本政府の意向にさからった金融政策をおこなっても、政府にはどうする事も出来なくなりました。
その後、日本銀行はデフレ経済にも関わらず、金融引き締め政策を継続させてしまいました。
この98年の日銀法の改正(改悪?)が、失われた20年を作った金融政策の失敗を止める事が出来なかった大きな要因です。
逆の発想で言えば、日本経済の復活のポイントはここにも存在しています。
また、2012年のアベノミクスはこの長きに渡った金融引き締め政策を大転換させた一つのターニングポイントでした。
明るい未来のために
これからの日本が、ふたたびデフレを脱却不況から脱却して、豊かな暮らしを実現するためには何が必要でしょうか?
✅日銀法の改正
✅リフレ政策
✅歳入庁の創設
日銀法の再改正
これは必須項目です。
現行日本銀行法第25条を改正し、誤った金融政策を行う日銀総裁には罷免もできる環境を作る事。
失われた20年は、日本銀行が巨大な権力によって誤った金融政策を続けてきた結果の悲劇でした。
これを繰り返さないためにも絶対に必要です。
【失われた20年とは?】わかりやすく解説
リフレ政策の実施
次に、リフレ政策をしっかりと実施する事が必要です。
その際に、インフレターゲットを明確にして必ず達成出来るまでは金融緩和を続ける事。
2020年5月現在、アベノミクス開始時に定めた2%の目標には程遠い現状です。
さらに、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、世界経済はかつての世界恐慌のような大デフレーションに陥る可能性が極めて高い状況です。
参考記事:新型コロナウイルスと日本経済について
インフレ経済どころか、このままでは大デフレ経済が到来しています。
物価目標の達成のためのさらなる金融緩和政策が必要です。
そして2020年現在、最も必要な政策は次の③の政策です。
歳入庁の創設
日本銀行の権力の増大とともに、もう一つ大きな問題があります。
それは財務省の権力も大き過ぎる事です。
現在の財務省が推し進める緊縮財政は、アベノミクスにおいてデフレ脱却を大きく拒んできました。
新型コロナウイルスの感染拡大不安が顕在化した今、金融政策にも増して日本の財政政策が絶対に必要です。
参考記事:財政政策とは?わかりやすく解説
なぜ財務省は緊縮財政を止めないのか?
1989年の消費税の導入から始まった緊縮財政は、今もなお財務省の意向によって推進されています。
新型コロナウイルスの感染拡大による経済対策も、現状は全く足りていません。
消費税の増税などは狂気の沙汰であると分かってもらえると思いますが、財務省は20%以上の消費税が必要だと言い放っています。
そして、着々と財務省の増税路線の計画はに進んでいます。
財務省から歳入庁を分離して世界標準の体制を作り、強すぎる財務省の権限を縮小する事が必要です。
そして最も大切な事は、政府や財務省、日銀、メディアなどから発せられる、いびつな情報に惑わされないような知識を私たち国民一人ひとりが持つことです。
一方でネットが普及してきた昨今では、若者を中心に少しづつ、正しい経済政策も認知されるようになってきました。
私たちは幸い、選挙がある民主主義の国に住んでいます。
また、日本は自由に経済活動ができる資本主義社会でもあります。
参考記事:資本主義とは?わかりやすく解説
これら現状の環境をいかし、過度に未来を悲観せず、未来への礎を築いていく事で、必ず私たちの未来は変えられます。
最後に、これらの金融政策の知識をいかして私たちの未来に生かしていく術を紹介します。
金融政策と資産運用
最後に、この金融政策への理解を資産運用にいかしていけるように、その関係性を解説します。
前述したとおり、インフレ経済では資産価値が上昇し、現金の価値が目減りします。
つまり、現金のまま貯金をしていても損をしてしまうのがインフレなのです。
ですから、インフレ経済では現金から金融資産に形をかえる資産運用をする事で、好景気の恩恵を受けられるのです。
逆に言えば、デフレ期では現金の価値が高まり、金融資産の価値が下落します。
デフレ期では現金で貯蓄する事が合理的になり、これがさらに不況を悪化させる負のスパイラルを作っていきます。
しかし、この金融政策の動向と物価の関係を理解ができれば、この視点は大きく変わります。
なぜなら資産運用の成功の秘訣は
金融政策の転換点
にあるからです。
資産運用の大原則は、安く買って高く売るという事です。
これは、資本主義下ではビジネスでもすべて同じです。
安く仕入れて、付加価値を乗せて売る事はビジネスの基本ですね。
つまり、デフレ不況から脱却する転換点で資産を買い、景気が過熱してくる時に資産を売却することで、大きく資産を増やすことができます。
実際に、アベノミクスによる大胆な金融政策の実施によって、株価や不動産価格は急騰して為替は大きく円安に転換しました。
※詳しくはリンク記事を参照ください。
【大胆な金融政策とは?】わかりやすく解説

画像:アベノミクスによる日経平均株価の急騰
この資産価格の転換点を見極めるもっとも重要なポイントが、中央銀行による金融政策なのです。
金融政策の確認方法
日本の金融政策の方向性を確認するに重要なポイントを紹介します。
①日銀政策決定会合
2020年現在、1年間に8回の頻度で日銀政策決定会合が行われています。
この会合によって、現状の経済状況に照らし合わせた次なる金融政策が話し合われます。
議事内容は以下の通りです。
①金融市場調節方針
②基準割引率、基準貸付利率および預金準備率
③金融政策手段(オペレーションにかかる手形や債券の種類や条件、担保の種類等)
④経済・金融情勢に関する基本的見解等
引用元:日本銀行ホームページ
この会合によって、金融政策の大部分が決定され、資産市場に一定の影響力をもっています。
特に、アベノミクス開始時に黒田晴彦日本銀行総裁が、量的質的金融緩和の導入を発表した時は資産価格が急上昇し『黒田バズーカ』と呼ばれました。
金融政策の方向と会合の結果は日本銀行ホームページのこちらから確認出来ます
また2020年5月現在は、新型コロナウイルス感染拡大に対する自粛活動による消費の激減に対応する為に、更なる追加緩和策が決定されました。

画像出典:日本銀行ホームページ
これからは新型コロナウイルス終息までに、甚大な経済的な被害が明るみになってきます。
その時に必要な事がこの金融政策であり、財政政策です。
さまざまな経済指標や資産価格が暴落した現在、長い目で見て未来に投資する事は必ず糧となってくれるでしょう。
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