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財政再建とは?
財政再建(ざいせいさいけん、fiscal adjustment)とは、赤字や債務などにより悪化している財政状況を改善させること。主に、政府や地方公共団体の租税など、公的機関の外部性回避について用いられる
Wikipediaより引用
日本で財政再建、財政健全化と呼ばれるものは、政府や地方公共団体の財政赤字を黒字に建て直す事を指します。
私たち個人でも、生活費が月々の給料を上回ってしまえば、収入を増やすか、生活費を節約する必要があります。
同じように、国家の財政においても赤字を作ってしまったら黒字に建て直す事が必要です。
ただ、国家財政を理解するには私たち一般の家計とは少し違った観点が必要ですので、ここから説明します。
歳入と歳出
一般的に国家財政を語る場合は、一会計期間の収入の事を歳入、出費の事を歳出と呼びます。
【歳入】
主に国民からの税金による税収です。その他、使用料・手数料や交付金・負担金、公債(国債・地方債)、通貨発行益などがあります。
【歳出】
社会保障、社会福祉、公共事業、教育、軍事、公務員の人件費、公債の償還費(国債費)など多岐にわたります。国を運営する為の必要になる経費といえます。
一年度においての歳入(収入)の歳出(支出)が上回ってしまうと赤字になります。
現代の日本は高齢化が進み社会保障費が増加したりと歳出がどんどん膨らんでいますので、日本政府は国債を発行して借り入れを増やし、税収では足りない予算を補っているという事です。

出典:nippon.com
確かに年々、国債発行残高(借金)と支出はは増えて、税収(収入)は横ばいです。
これだけ見ると大変な事に思えてしまうのですが、この国債発行残高の増加だけを危険視していては、問題の本質を見誤ってしまいます。
国の借金に関しては、こちらの記事を参照ください。
プライマリーバランス(基礎的財政収支)について
次に、財政再建の為に重要視される指標、プライマリーバランスについて説明します。
プライマリーバランスを簡単に言えば、収入と支出のバランスです。この収入と支出とは、厳密には前述した歳入、歳出とやや異なりますので、おさらいを兼ねて少し解説します。
【収入】
歳入は税金の他に国債の発行による収入も含みます。これは政府の国民からの借金であり、純粋な収入ではありません。なので全収入から借金(国債発行額)を引いた純粋な金額を収入と呼びます。
【費用】
国が払う費用のうち過去の借金(国債返済額)を返す分を除いた国が払う純粋な金額を費用と呼びます。
この単年度の純粋な収入と費用のバランスのことをプライマリーバランスといいます。
家計で考えるともちろんA>Bが望ましいく、国家財政においてA>Bになる事をプライマリーバランスの黒字化といいます。政府は2025年までにプライマリーバランスの黒字化を達成させるために、税収を増やして歳出を削ろうとしているのです。

日本のプライマリーバランスの現状は、平成4年を境に赤字に転落しました。
その後、失われた20年突入、リーマンショックを契機に大きく赤字は膨らみ、アベノミクス開始によって少しづつ改善して現在に至ります。
これらから分かる事は、景気が悪化しプライマリーバランスは赤字になってしまうという事です。
不景気の時には消費や企業利益が低迷してGDPが低下し、税収が減ってしまいます。加えて、政府は景気対策のために財政支出を増やしますので、収入は減り、費用が増えてしまうのです。
これは当たり前のようで盲点となりやすい部分ですので、財政再建を目指す上では必ず押さえておきたいポイントです。
どうすれば財政再建が可能か?
では、どうすれば財政再建が出来るのでしょうか?
それは、経済成長する事です。
前述した通で、景気が良くて経済成長(名目GDPの拡大)していれば税収は増えてプライマリーバランスは黒字になります。
さらに踏み込んで言えば、プライマリーバランスの黒字化を達成させる事は確かに大切なことですが、赤字の拡大が日本の財政破綻に直結するかといえば、そうとも言い切れません。
ここで、ドーマーの定理(ドーマー条件)を紹介します。
ドーマーの定理は、「ドーマーの条件」とも呼ばれ、1940年代にロシア系アメリカ人の経済学者エブセイ・ドーマーによって提唱された、財政赤字の維持可能性に関する定理(条件)のことをいいます。-中略-日本においては、名目GDP成長率が名目公債利子率を上回れば、財政赤字は維持可能であるという概念になっています。
出典 i finance
これを簡単に表現すれば、あなたがもし多額の借金を抱えているとして10%の金利と分割した元本を支払っているとします。
一方で、あなたは仕事で昇格して、年収が返済金を超える金額がアップしました。しかもあなたの昇格は毎年用意されていて、これからもあなたの年収には利回りがついてきます。
このような状況では、あなたの借金返済にかかる利子をあなたの年収の伸びが超えた時点で自己破産の可能性は理論上はなくなります。
国家財政で言えば、名目GDP成長率が国債金利より上回っていれば、財政再建は成功しているという事です。
しかし、ヒトと国家財政を語る上で借金の考え方には注意点があります。
私たちヒトは必ず寿命がありますので、当然として完済への期限と義務があります。ですので、先ほどの例えで、理論上は借金の負担を失くせたとしてもどこまでも借金をする事は出来ません。
しかし、国家には寿命がありません。
実は、国家は借金を完済する必要はないのです。
そんなの無茶苦茶だと指摘を受けそうですが、日本政府が国債を発行して、国民からお金を借りるようになってから、これを完済した事は今までにありません。
つまり、このドーマー条件をクリア出来ていれば、財政破綻のリスクはなく健全化は成功しているとも言えるのです。
プライマリーバランス黒字化への固執は逆効果
ここまで家計の例えも挟みながら説明してきましたが、国家財政においてプライマリーバランスを黒字化することは重要なのでしょうか?
実はプライマリーバランスの黒字化に固執してしまうデメリットも存在します。
◆歳出を制約して支出を削る為、デフレ期や不況の時には更にお金の回りを悪くして状況を悪化させてしまう。
◆歳入を増やそうとして増税をすると、消費や投資が停滞して不況になってしまう。
◆不況に陥ってしまうと税収は減る為、歳入も減る。
そうです。
経済成長よりもプライマリーバランスの黒字化を優先し、増税などの誤った政策を行ってしまうと、かえって景気が悪くなり財政再建からむしろ離れてしまうのです。
2019年現在の日本政府も、10%への消費増税を控えてこの負のループから抜け出せずにいます。
不景気時においては、税収を増やすために行う事は増税ではなく減税なのです。
税収はシンプルに表すと名目GDP×税率です。
景気が冷え込むと名目GDPは縮小してしまうので、税収は減ります。
つまり、税収を増やす事に固執して増税を実施したり、財政支出を削減する緊縮財政は、極めて誤った政策であると言うことが出来ます。
つまりデフレ期に緊縮財政を行うと、さらに景気が冷え込み、かえってプライマリーバランスの赤字を拡大させてしまうのです。
名目GDP成長率を高める方法
名目GDPを高めるにどうすればいいのでしょうか?
①金融政策でマイルドなインフレに持って行く事
インフレに向かうことで消費や投資は活発化してGDPが高まり、結果として税収が増えます。
②積極的な財政政策によって金融政策の効果を最大に高める事
歳入を増やそうとして増税、すなわち緊縮財政を行ってしまえば、消費が減速してGDPが減ります。税収は減りますし、名目GDP成長率が低下してしまいますので、国債の金利が成長率を上回ってしまいます。
この①と②がしっかりと同じ方向を向いて行われている事が重要です。
アベノミクスで大胆な金融緩和政策をおこなった第二次安倍内閣は、金融政策においては一定の成果をあげました。しかし、財政政策がまったく違った方向を向いてしまい、消費増税をはじめとする大緊縮政策をおなってしまいました。
これはアクセルを踏みながらブレーキを踏んでいるようなものです。
繰り返しとなりますが経済成長こそが、財政再建の1番の近道であり解なのです。
プライマリーバランスを気にするあまりに増税をしたり、政府支出を削ったりすれば、不況が悪化して日本の経済は危機的状況に陥ってしまうのです。
政府の借金は将来の国民にツケをまわすのか?
ではここで、メディアを中心に発信される『借金を増やして将来の国民にツケを回す事はいけない』という論調を検証します。
そもそも、日本政府は誰からお金を借りているのか?
外国からではありません。貸しているのは私たち日本国民です。
私たちはよく言われる『国民一人あたり800万円の借金』を背負っているのではなく、国民一人当たりが800万円を日本政府に貸しているのです。
歳出を削って不況を悪化させてしまう事は前述した通りであり、それによって税収減、経済衰退となってしまう事こそが将来に対するツケを回す事になるのです。
一方で、名目成長率を高めるための金融政策および財政政策(歳出拡大)を適切におこなっていれば、借入金利よりも収入が増える事になりますので、実質借金は目減りしていきます。
プライマリーバランスを黒字化させる ×
名目GDP成長率を高めて、公債金利を上回る ○
この事実を確認して、日本の将来の為に今するべきことをしっかり確認したい所です。
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