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EU(欧州連合)とは?

本記事ではこんな疑問にお答えします。
EU(欧州連合)は、EC(欧州共同体)を基礎に、外交・安全保障政策の共通化と通貨統合の実現を目的とした自由貿易経済圏です。

画像:EU参加国一覧
本記事では、EU(欧州連合)が作られた経緯と、現在のEUの課題についてわかりやすく解説します。(知りたい情報は目次を活用ください)
EU誕生の理由
結論からいえば、EU誕生の目的は以下の2つにあります。
●ヨーロッパから争いをなくし平和な地域にする
●アメリカ、ソ連、日本などの経済大国に対抗できる経済圏を作る
ヨーロッパにEU(欧州連合)が生まれた背景には、下記のような中世以降のヨーロッパにおける争いの歴史があります。
30年戦争
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画像:Wikipedia・白山の戦い
100年戦争
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画像:Wikipedia100年戦争
フランス革命
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長らくヨーロッパでは民族や宗教間の壮絶な争いが絶えまなく繰り広げられていましたが、1945年に第2時世界大戦が終結します。
壮絶な争いによってヨーロッパ全土は疲弊したさなかに、アメリカ合衆国とソビエト連邦による東西冷戦が始まりました。
険悪な世界情勢のなか、ヨーロッパでは過去の反省をいかしてヨーロッパ諸国の結束を望む声がではじめました。
そうして2つの軍事大国に対抗しうる経済圏を作る為にEUの元となる組織『ECSC』が設立されたのです。
EU誕生までの経緯
それではECSCの誕生からEUまでの変化を時系列で確認してみましょう。
1952年
欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が発足。
⬇︎
欧州経済共同体(EEC)と欧州原子力共同体(Euratom)が発足。
⬇︎
1967年
EECとEuratomの2つが
欧州諸共同体(EC)として統合。
⬇︎
1992年
欧州連合(EU)が誕生。
つまりEUが設立された目的は、ヨーロッパ地域における不毛な争いの歴史に終止符を打つためです。この2つの目的の下でさまざまな変化を遂げながら1992年、EU(欧州連合)は誕生しました。
EUのルール

EUには、加盟するには大きく3つのルールが存在します。
①EU圏の共通通貨EURO(ユーロ)を使用する
②パスポートなしで国家間を移動できるようにする
③ 加盟国との貿易で関税を撤廃する
①:共通通貨ユーロ(EURO)の使用
EUに加盟すると、共通通貨であるユーロを国内の取引においても使用しなければいせません。
◼︎ユーロ圏 ◼︎欧州連合非加盟のユーロ使用地域
画像:Wikipediaより引用
ユーロ圏オーストリア・ベルギー・キプロス・エストニア・フィンランド・フランスドイツ・ギリシャ・アイルランドイタリア・ラトビア・リトアニアルクセンブルク・マルタ・オランダポルトガル・スロバキア・スロベニア・スペイン赤文字はG7国家

参考記事:為替レートとは?

②:パスポートなしで国家間を移動
EU(欧州連合)にとって、人の移動の自由は大切な基本理念の一つです。
それを支えているのがシェンゲン協定です。
シェンゲン協定は、ヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を越えることを許可する協定である。
Wikipediaより引用
シェンゲン協定は1985年、EUの前身である欧州経済共同体に加盟する5カ国(西ドイツ・フランス・ベルギー・オランダ・ルクセンブルク)で、人の自由な移動を定めたものが始まりです。
目的は域内の自由移動を進めることによって経済的な結びつきを強める事でした。
参考記事:新型コロナウイルスについて

③:加盟国との貿易関税の撤廃
関税撤廃を行う自由貿易は、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)やFTA(自由貿易協定)など、世界各地の経済圏において実施されています。
基本的には自由貿易は、国家間の取引を活性化させて各国にwin-winの関係を成立させます。(比較優位の法則)
【参考記事】
しかし、ここで問題点が浮上します。
本来は自由貿易を促進させるために各国の中央銀行は金融政策を用いて自国通貨を調整し、自由貿易の効果を最大限にひきだす政策を行います。
ところがEU加盟国は、ユーロという単一通貨に縛られている為に自国通貨の供給量をコントロールする事が出来ません。
通貨の統一とは、金融政策の統一ですから、加盟国それぞれが自由な金融政策を捨てることを意味するのです。
国家は、金融政策(通貨供給量の調節)によって景気をコントロールが、通貨を統一したユーロ圏内の国々では、金融政策の自由が効かないのです。
これが、次に説明するEUの大きな問題点にリンクしていきます。
EUの問題点
それでは本題です。EUには、大きな2つの問題点がありますが、それをひとつづつ解説します。
EUの問題点① 移民問題
2016年6月、EU加盟国であるイギリスの国民投票によってイギリスのEU加盟国からの脱退が決定しました。
イギリスの世論がヨーロッパの理想の元に結成された統合経済圏からの離脱に向かった背景には、移民問題が存在します。
なぜなら人の行き来が自由になったEUでは、賃金の安い国から高い国への人の移動が起こるからです。
2004年から2015年の約11年間でイギリスに入国した移民が100万人➡︎300万人と激増したのです。
物価の低い国から来た移民の方が低賃金で雇えますから、イギリスの国民は多くの職を移民に奪われる事となります。
それは仕事だけに留まらず、社会保障や教育面など、イギリス国民と同等の福祉を受ける移民が増加する事になります。
こうして実質的にイギリス国民のメリットが奪われていったのです。
その為、2015年あたりから急速にイギリス国民の中に反EU離脱への気運が高まってきました。
元来、EUには国境のボーダーラインを低くして、最終的には一つの国家と同等の共同体を作るという目的があります。
しかし、この移民問題から国民の自国民としてアイデンティティを消し去る事の難しさが垣間みえました。
ヨーロッパの各国民にとって宗教観、民族観などのアイデンティティを消し去る事は非常に困難であるといえます。
移民を自国民と同等に扱う事がEU共同体の理想である一方、イギリス国民の前には理想と現実とのギャップが立ちはだかったのです。
EUの問題点②:金融政策の問題
前述したように、EUの問題の根底には
経済を統一しても
政治(国家)が統一出来ない
この一点に集約されます。
その状況下では、経済の完全統一も実現できません。
具体的な例を挙げれば、各国の金融政策についてです。
通常、国が経済政策を行う際には、景気状況を見ながら中央銀行が金融政策によって自国通貨の供給量を調節する事によって景気をコントロールします。
【日本の金融政策】
例えば、日本では日本銀行が金融政策によって発行した円で、日本国内の民間銀行が持つ日本国債を買いとる形で円が市場に流れます。


【EUの場合】
一方EUでは通貨をユーロに統一し、発行権は中央銀行ECB(ヨーロッパ・セントラル・バンク)にゆだねられています。
この中央銀行が通貨を発行する際に問題が起こります。
それはEU加盟国への通貨供給量をどのように配分するか?という問題です。
前述のとおり、中央銀行が発行した通貨を市場に供給する場合には、金融機関が持つ国の発行する債券(国債)を中央銀行が買いとる形で発行通貨を供給します。
しかしEUの場合は、通貨はユーロとして統一していますが、国家はバラバラです。ですので、どの国からどれだけの国債を買い取るのか?(どの国にどれだけユーロを供給するか?)という問題に突き当たります。
通貨の供給を平等に統一すれば、国力の差によって国家間の格差が助長されてしまいます。
最近のドイツとギリシャを例にします。
ドイツは常に財政黒字を計上する一方で、ギリシャは破たん寸前でした。
EUの理想はドイツが自らの利益を犠牲にしてでもギリシャを救うことでが、当然ながらドイツ人の国民感情(アイデンティティ)がこれを拒んでしまいます。
『なぜ私たちドイツ国民が、怠け者のギリシャ国民を助けなければいけないのか?』
この時に、国民感情、アイデンティティが邪魔をするのです。
一方で、金融と財政が統一されている普通の国、例えば日本を例にとって正常な状態を考えてみます。
財政が切迫されているA県と、毎年黒字を計上しているB県があるとします。このときに、B県は地方交付税という形でA県を助ける事が出来ます。
これに反対する日本国民はあまり見かけません。それは、日本国民は同じ言語で同じ民族であるという潜在的なアイデンティティを持っているからです。
このように、EUでは、設立当初から少々無理がある形で経済統一が行われました。
その歪が、ギリシャの破綻をはじめとする経済格差に少しづつ現れてきているのです。
イギリスのEU離脱によって変わること
それでは最後に、2020年末に正式に実施されたイギリスのEU離脱が①イギリス②EUそして③日本に与える影響について考えてみます。
①:EU離脱がイギリスに与える影響
イギリスが国民投票によってEUからの離脱が発表されたとき、世界の株式市場は先行き懸念から大暴落しました。
実はイギリスに限っては今回のEU離脱がマイナスにはたらく公算が大きいのです。
それはイギリスはそもそもユーロ通貨に加盟しておらず、ポンドで取り引きしていたため言ってみればEUの『いいとこ取り』をしていました。
これが、移民の流入によって国内感情がEU離脱に傾いたわけですが、移民の流入を止める方法がEU離脱であったことはイギリス経済にとってもマイナスの公算が大きいでしょう。
金融財政政策の自由と大きな自由貿易圏も放棄してしまったからです。
②:EUに与える影響
イギリスのEU離脱がEUに与える影響は、イギリス自身が被る悪影響ほどは大きくありません。
しかし、イギリスのEU離脱が世界経済に与える悪影響が短期的には大きいと試算されていることから、EUに与える影響も無視はできません。
とはいえイギリスのEU離脱が決定した時にささやかれていたイギリスと世界経済への悪影響がかわいく見えるくらいの経済ショックが新型コロナウイルスの感染拡大によってもたらされました。
ここからのEUとイギリス経済は、いかに大胆にコロナ経済対策を打てるかにかかっています。
③:日本に与える影響
イギリスのEU離脱は日本にとっては実はいい側面があります。それは①イギリスがTPPへの加盟申請を表明したことと②イギリスとの高いレベルのEPAを締結できたことです。
①:イギリスのTPP加盟申請の表明
EU離脱後に自由の身となったイギリスは2021年1月に、日本が主導する自由貿易協定TPP(環太平洋パートナーシップ協定)への加盟申請することを発表しました。
日本にとってのTPPは、中国やロシアを意識した安全保障の観点からも極めて重要な施策であり、ヨーロッパの先進国であるイギリスが参加を表明したことは日本にとっては大きなメリットとなります。
②:イギリスとのEPA締結
イギリスのEU離脱が実施された翌日の2021年1月1日に、日本とイギリスでの単独のEPA(経済連携協定)が締結されました。
このEPAは従来の日本とEUが結んでいた協定よりもさらに高いレベルで締結された分野もあります。
たとえば電子商取引の分野では、ビジネス上必要な企業のデータのやり取りに対する制限の緩和などが実施されて、両国にとってメリットがある内容となっています。
EUの問題のまとめ
EUの問題点は
①統一通貨ユーロによって金融政策の自由度が少ないこと
②アイデンティティや国家的利益が異なることで国家間格差が拡大する
上記の根本的な問題があるために、次のような問題も出てきます。
①稼げる国への移民の増加
②ギリシャのような財政破綻する国家があらわれる
自由貿易協定には多くのメリットがありますが、通貨の統一を維持する以上は、アイデンティティの統一や財政政策を統一しなければ格差は拡大しつづけることが予想されます。
イギリスの離脱が実現した今、今後のEUの動きに注目しています。
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