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実質賃金のマイナスとアベノミクス
実質賃金の低下は、アベノミクスへの批判には格好の餌食です。今でも、各方面からこれらを理由に金融政策への批判が展開されています。
確かにアベノミクス開始(2012年末)以降、実質賃金は下落トレンドに入っているように見えます。

実質賃金(じっしつちんぎん)とは、労働者が労働に応じて取った賃金が、実際の社会においてどれだけの物品の購入に使えるかを示す値である。
Wikipediaより引用
名目賃金と実質賃金の違いを理解する
賃金とは総給与額の事ですが、この給料が実際に世の中でどれくらいの価値を持つかを表す指標が実質賃金といいます。
名目賃金について
まずは、実質賃金を理解する前に名目賃金について説明します。
名目賃金は、私たちの給料のそのものの平均を指します。
あなたの去年の年収は400万円だったとします。今年はさらに頑張って見事に昇格し、年収が440万円にアップしました。
あなたの一年間の賃金は、去年に比べて10%増加しました。(400×1.1)
この400万円から40万円アップした440万円の総給与額を名目賃金と呼びます。
ただし、名目賃金では、この440万円の価値を正確に把握する事が出来ません。
なぜなら世の中の物価も、あなたの給料と同じように変動するからです。
実質賃金
対して実質賃金の説明をします。
実質賃金を計算する時は、去年からの物価の変動、つまり物価上昇率(インフレ率)を考慮しなければいけません。
前例と同じく、あなたの名目賃金が400万円から440万円に10%アップしたとします。
しかし、あなたが去年から目をつけていた200万円の車の価格がインフレによって210万円に5%値上がりしました。
世の中の物価が5%上昇し、その車も例外ではなかったのです。
ということは、あなたの給料が10%上がったとしても、物価が5%上昇したとすれば、あなたの実際に上がった給料は賃金上昇率-物価上昇率で、5%ということになります。
このように、世の中の物価変動に伴って、実質的な賃金の価値も変動します。
今年の実質賃金=(名目賃金上昇率−物価上昇率)×去年の名目賃金
実質賃金上昇率=名目賃金上昇率−物価上昇率
という式で表せられます。
上記の例では、シンプルに考えれば
給料が10%上がったけど物価が5%上がったので、実質の賃金の上昇は5%ということになります。
実質賃金=賃金上昇率-物価上昇率
実質賃金伸び率は5%
という事です。
実質賃金の見方と批判
リフレーション政策でも説明しましたが、一般的に景気が良くなれば給料が上がり、物価も上がります。
しかし、実質賃金の見方には少し注意が必要です。
ポイントは、名目実質共にこの賃金の指数は『賃金の平均値』であるという事です。
景気の回復期は実質賃金が下がる
実は、アベノミクス初期にもよく見られた現象ですがデフレから脱却して、緩やかに景気が回復する時には実質賃金は下がります。
それは、まず第一に雇用が回復するからです。

2012年12月、第二次安倍政権の発足とともに開始された経済政策によって、就業者数は劇的に回復しました。
ところが、メディアや野党から以下のような批判が聞こえました。
◆雇用が増えても、実質賃金は下がっているから国民は貧しくなっている。
この批判は一見正しくみえますが、一概にそうとも言い切れません。
なぜなら、雇用者数が増えたという事は、仕事を新たに始めた人(新たに職につけた人)が増えたという現実は、平均の賃金を押し下げてしまうからです。
ここで、人を雇う側の企業の視点から見てみましょう。
景気が回復してきたといっても、企業はまだまだ半信半疑です。しっかりと利益を上げられていない企業も多いでしょう。
ですから、最初から正社員として高給を支払って労働者を雇うにはリスクが高いのです。
その為、非正規雇用から雇い始める企業は多いです。
今まで働けていなかった人に仕事が出来る環境になったというだけて良いことのような気がしますが、何故か雇用の回復は実質賃金のマイナスという形で大きな批判を受けました。
『雇用が増えても、実質賃金は下がっているから国民は貧しくなっている。』
この批判は的はずれです。
そもそも雇用が増え始めるときは、名目、実質ともに平均の給与は下がるのです。
なぜなら、今まで職に就けなかった人たちに就けるようになり、非正規雇用などの低賃金の雇用が大幅に増え、所得の平均である名目、実質賃金の指標は一時的に下ってしまう事は避けられないからです。
なぜ雇用者数の増加によって実質賃金が低下するのか?
雇う側の企業の視点から解説します。
【企業A】社員10名に20万円の給料を支払っています。この企業Aの給料の平均は、当然20万円ですね。
20万×10名=200万円(総給与)
200万円÷10=20万円(平均給与)
景気が良くなって企業Aは新しく10名の社員を雇用する事になりました。しかし、その10人は新人ですから給料は10万円からスタートしたとします。
20万×10名=200万円(従来の総給与)
10万×10名=100万円(新しく雇い入れた社員の総給与)
そうなれば、企業が全社員に支払う総給与額は300万円に上がります。
200万+100万=300万円(総給与)
この総給与額を、新しく雇い入れた10名も合わせて20名で割り、平均を出します。
300万円(総給与額)÷20名(総社員数)=15万円(平均給与)
なんと、景気が良くなって雇用者数が増えたにも関わらず、A企業の平均の給与は下がってしまったのです。
これが、雇用者数の増加と賃金平均のマイナスの関係の実情です。
さらに、デフレから脱却する過程では、インフレ率が上昇します。
実質賃金=賃金上昇率−物価上昇率
ですので、景気の回復期の実質賃金(平均給与)は下がってしまう傾向にあるのです。
つまり、実質賃金が減っているから経済政策が失敗しているという論調は、極めて経済への知識が乏しい所から発信されていると言えるでしょう。
むしろ歴史上、実質賃金の上昇は景気の後退期に見られる兆候です。
景気の良し悪し、そして日本国民が本当に豊かになっているかを判断する指標は、実質賃金ではなく、総給与所得や、総雇用者数、失業率で判別するべきなのです。
ここは、近年の実質賃金への批判について、押さえておきたいポイントです。
バブル崩壊以降の名目、実質賃金を解説する
ここで再度、バブル崩壊(1990年)以降の名目、実質賃金の推移を見てみましょう。

なんと、株バブルが弾けた1990年以降、名目実質賃金共に上昇基調に入っている事がわかります。
そこから、1997年には消費税の5%増税が加わり、日本経済はどん底に向かいます。
どん底の97年から少しづつ日本の実体経済は2006年(小泉政権の株価上昇期)に向かって緩やかに回復していきました。
なんとその2006年まで、名目、実質賃金は低下し続けている事がわかります。
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