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マンデル・フレミング効果についてわかりやすく解説

本サイトでは、経済を成長軌道にのせる政策の大前提として、経済環境にあわせた金融政策を推奨しています。
その金融政策の効果を裏付けている理論に『マンデル・フレミング理論』があります。
本記事ではマンデルフレミング理論についての疑問に、できるだけ簡単にわかりやすく解説します。
ロバート・マンデル教授
マクロ経済政策は大きく分けると金融政策と財政政策があります。
【参考記事】金融政策について
財政政策について
この2つ政策の関係を理論化したのが、ノーベル経済学賞受賞者であるロバート・マンデル教授です。

画像:ロバート・マンデル教授
それではこれから、マンデルフレミングとは何かを解説します。
マンデルフレミング効果とは?

マンデル・フレミング効果をとても単純化していえば『変動相場制の国で景気回復するには、財政政策よりも金融政策の方が効果的』ということです。
もう少し踏みこんでいえば金融政策を伴わない財政政策は効果が限定されるということです。
日本やアメリカは、自国通貨の価値が常に変化する『変動相場制』を採用していますから、マンデルフレミング効果の条件に一致します。
つまり日本の景気をしっかりと回復させるには金融政策が必要であり、『財政政策だけでは景気を良くできませんよ』ということです。
マンデルフレミング効果の経路は?

マンデルフレミング効果は以下のような経路をたどっておこります。
①財政支出の拡大
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②実質金利の上昇
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③通貨高(円高)
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④輸出の減少
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⑤GDPの減少
この経路をたどって、金融政策がない状態で財政支出をおこなうと、円高によってGDPが減少し、財政政策の効果は相殺されてしまうということです。
これをひとつづつ解説します。
①:財政支出の拡大
財政支出は、政府が国債を発行することで国内から資金を調達した財源をもとにして実施される景気刺激策です。
この時、日本政府によって国内から日本円が調達されるために、一時的に国内の日本円の量が少なくなります。
②:実質金利の上昇
国債発行のために日本円が市場から少なくなるため、財政支出によって実質金利は上昇します。
これは、政府が日本円を調達して不足し日本円の価値が上昇することで起こります。
この現象を、クラウディングアウトといいます。
【補足記事】
③:通貨高(円高)
クラウディングアウトを起こして金利が上昇すれば、世界の投資対象として日本円が買われることになります。
そうすると円高が起こって円の価値は上昇します。
【補足記事】
④:輸出の減少
円高がおこると今度は、日本の輸出が減少します。
日本円レートが高くなれば、海外からみた日本の商品もその分だけ高くなります。
つまり、輸出が減少します。
⑤:GDPの減少
輸出が減るとGDP(国内総生産)も減ってしまいます。
なぜならGDPは
民間消費+民間投資+政府支出
+(輸出−輸入)
この式で算出されます。
財政政策によって政府支出が増えても、円高によって輸出が減ってしまえば財政支出の効果は相殺されてしまいます。
【補足記事】
近年の事例
リーマン・ショック
近年の日本でマンデルフレミング効果が起こった事例は、2008年におこったリーマンショックによる経済危機のときです。
当時の麻生政権は、現金給付など合わせて60兆円近い事業規模の財政支出をおこないました。
しかしその後に日本を襲ったのは、過度な円高でした。
なぜなら、金融政策(通貨発行量)がまったく足りていなかったからです。

これはリーマンショック時の、日銀、アメリカ中央銀行、EU中央銀行の発行した通貨の量の推移です。
リーマンショックを受けてデフレ懸念が蔓延した時、日本銀行は明らかに対応が足りませんでした。
この時、麻生政権が大規模な財政政策を打ったにも関わらず、円高、株安、そしてデフレの深刻化がおこりました。
金融政策を伴わない財政支出は、マンデルフレミング効果によって円高を招き、効果が相殺されてしまった結果です。
【補足記事】
国際金融のトリレンマ
同じくマンデルによってマンデルフレミング効果を拡張させた理論として『国際金融のトリレンマ』と呼ばれる一説が提唱されました。
国際金融のトリレンマとは、一国の通貨政策において
①:為替相場の安定
②:金融政策の独立性
③:自由な資本移動
の3つのうち、必ずどれか一つをあきらめなければならないというものです。
①:為替相場の安定
為替相場の安定とは固定相場制のことです。
『資本移動の自由』と『金融政策の独立性』を選んで金融政策を行うと、金利が変動するため資本移動が発生します。
金利が変動して資本移動がおこれば為替相場は変動しますから、『為替相場の安定性(固定相場制)』が放棄されたことになります。
日本では、固定相場制を放棄して変動相場制を採用しているため、金融政策の独立性を担保できています。
②:金融政策の独立性
金融政策の独立性とは、経済環境にあわせて自由に金融政策を行えることです。
仮に『資本移動の自由』と『為替相場の安定性』を選べば、為替相場を維持するために基軸通貨国とあわせた金融政策をおこなう必要があります。
これは「金融政策の独立性」を放棄したことを意味します。
③:資本移動の自由
資本移動の自由とは、国際資本取引に対する制限を緩和,撤廃することです。
「為替相場の安定性」と「金融政策の独立性」を選んで金融政策を行うと、金利が変動します。
このときに、為替相場を維持しようとすれば、資本移動を規制する必要があります。
これは、「自由な資本移動」が放棄したことを意味しています。
まとめ
マンデルフレミング効果は、アベノミクスによってその理論を証明しました。
アベノミクスでは、金融政策を積極的におこなって、増税によって財政政策を引き締めてましたが、結果としては雇用が大きく改善しました。
【補足記事】
アベノミクス当初にはさまざまな批判を浴びたマンデルレミング効果ですが、下記の2つだけでもその理論が証明されました。
✅リーマンショック対策(金融政策なし・財政政策あり)
➡︎円高デフレ不況が進行
✅アベノミクス(金融政策あり・財政政策しきしめ)
➡︎雇用が拡大
勘違いされがちですが、マンデルフレミング効果は、財政政策の効果を否定しているわけではありません。
マンデルフレミング効果は金融政策を伴わない場合の財政政策を否定しており、金融政策が伴った財政政策は否定していません。
むしろ、景気浮上のための金融政策と財政支出はセットで実施することで効果は大きく拡大します。
アベノミクスのケースでも、消費税率の引き上げによる緊縮財政をしてしまったことで、金融政策の効果を大きく削いでしまう形となっています。
下記の図のように、不景気では、金融政策によって通貨を供給しながら、財政支出を行うことがもっとも重要なのです。

2021年現在、新型コロナウィルス感染拡大への対策として新たに金融政策が拡大され、財政支出も大きく拡大されています。
同時に日経平均株価はバブル崩壊後としては最高値の30,000円を記録しました。
少しづつ日本の経済対策がまともになっていていると言えるでしょう。
消費税率10%などの緊縮財政がまだ尾を引いているのとは否めませんが、大胆な金融財政政策によって、市場はアフターコロナへの経済復活を織り込みはじめています。
これからも、金融政策と財政政策がセットで適切に実施されれば、日本の資産市場と実体経済が大きく飛躍することも不可能ではありません。
私はアフターコロナのV字回復を希望しています。

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