
・金融政策はどんな効果があるの?
・金融政策と財政政策の違いは?
・金融政策と景気の関係を知りたいです!
本記事はこんな疑問を解消します。
本記事の内容
・金融政策の概要
・金融政策と財政政策のちがい
・金融政策と景気の関係

目次
金融政策とは?
金融政策は、中央銀行が国内の通貨量を調節して雇用の最大化を目指す政策です。
具体的には、金融政策で政策金利や▶︎マネタリーベースを調整することで、景気をコントロールします。
金融政策が景気に波及するには下記のような経路をたどります。
金融政策の流れ
- 金融政策の調節
- 物価の変動
- 雇用の変動
- 消費の変動
それでは具体的に解説しますね。
金融緩和と金融引き締め
金融政策の手法は大きく2つにわかれます。
金融政策の方法
- 金融緩和
- 金融ひき締め
①:金融緩和政策
金融緩和政策は、おもに不況時に実施される金融政策です。
世の中の通貨の量を拡大して、物価を上昇させることで景気の底上げをおこないます。
具体的には、政策金利の引き下げかマネタリーベースの拡大によって実施されます。
▶︎2013年にアベノミクスで実施された『大胆な金融政策』についてくわしくはこちら
②:金融引き締め政策
金融引き締め政策は、おもに好況時に実施される金融政策です。
世の中の通貨の量を縮小させて、物価を上昇を抑えることで景気の加熱を防ぎます。
具体的には、政策金利の引き上げかマネタリーベースの縮小によって実施されます。

▶︎▶︎消費者物価指数についてくわしくはこちらの記事で解説しています
金融政策の手法
前述したとおり、世の中のマネーの量を調節する手法は大きくは2つにわかれます。
①:政策金利の調節
②:マネタリーベースの調節
こちらもそれぞれ解説しますね。
①:政策金利の調節
世の中のお金の量を調節するひとつめの方法は、政策金利の利率を操作する方法です。
メモ
・政策金利
中央銀行が一般の銀行(市中銀行)に融資する際の金利のことで、一般の銀行が民間に貸し出すときも、この政策金利が基準になります。
政策金利の操作によって通貨流通量(マネーストック)を調節する金融政策は、伝統的金融政策と呼ばれます。
国内のお金の量は下記の経路をたどって調節されます。
金融政策の経路
- 政策金利の引き下げる
- 民間銀行の貸出金利の低下
- 民間銀行が貸し出しを拡大
- 流通する通貨の量が拡大
- 消費の拡大
- 物価の上昇
市中銀行が民間企業への貸し出しの金利を引き下げれば、企業にとっては借り入れしやすい環境となります。
つまり政策金利の引き下げは、銀行が市中に貸し出しを拡大することで国内に流れるお金の量が増え、景気が拡張するのです。
また、景気を冷ましたい時には政策金利を引き上げて民間へのお金の流れを縮小させます。
参考
1999年から日本は、ながびくデフレ不況から脱却するために、政策金利を0近辺まで引き下げるゼロ金利政策を導入しました。
しかし日本はデフレから脱却することがは出来ませんでした。
そうして従来の金利を調節する方法に代えて新しく導入した方法が②:マネタリーベースの調節です。
②:マネタリーベースの調節
マネタリーベースを単純化して言えば世の中に存在するマネーの合計です。
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景気低迷時にマネタリーベースを拡大する金融緩和政策を量的緩和政策と呼びます。
日本でマネタリーベースの拡大が本格的に実施されたのは、2013年から黒田日本銀行総裁よって導入された『量的・質的金融緩和』です。
画像:黒田東彦日本銀行総裁
量的質的金融緩和では、それまで横ばいだった通貨の供給量(マネタリーベース)を急拡大させました。
量的質的金融緩和は、金利の調節による伝統的な金融政策とはちがい、通貨を発行して市場に供給してきます。
これら、従来の金融政策の方法にとらわれない景気刺激策は非伝統的金融政策と呼ばれます。
マネタリーベースを拡大するには公開市場操作をおこなうことが一般的です。
メモ
公開市場操作
公開市場操作とは日銀が市場から金融資産(国債や株式)を売買することで通貨供給量を調節するという方法です。
中央銀行がお金を発行したからと言って、そのまま世の中にお金をバラまくことは出来ません。
中央銀行が国債や株式など市場の金融資産を買い取るかたちで世の中にマネーが供給されるのです。
中央銀行が金融市場から資産を購入して通貨を供給する公開市場操作を『買いオペレーション』
反対に、金融市場で資産を売却して通貨を市場から吸収することを『売りオペレーション』といいます。
金融政策と物価

金融政策では国内のお金の量を調節することで物価を調整しますが、次にこちらの疑問について解説します。
結論からいえば、物価は物の量とお金の量のバランスで決まるからです。
とても単純化したたとえで解説します。
世の中にりんご1個と1万円があったとして、りんご=1万円だったとします。
この1年後、りんごの生産技術が発達してりんごが10個に増産されたとします。
この状況では、りんご1個あたりの価値は千円まで低下することになります。
生産技術の向上によってりんごの数が10倍になり、お金の量が一定であればりんご1個あたりの価値は10分の1に下がってしまいました。
このように物量と通貨供給量の変化によって物価は変動します。
このりんごの例が示す生産技術の発達による物価の下落こそが、長らく日本が苦しんだ▶︎デフレーションです。
金融政策は、経済がデフレによって停滞しないように中央銀行がおこなうべき、極めて重要な政策なのです。
金融政策と雇用
物価が下落すれば、企業の利益は低下して、求人倍率や賃金などの雇用情勢が悪化します。
なぜ物価と雇用は関係するの?
それではこの疑問に対する答えを、ふたたび前述したりんごの例を使って解説します。
世の中にはりんごと1万円が存在している
りんごの生産業者は、人を雇い、生産設備も整えて100個のりんご生産に成功しました。
それでも世の中の1万円はそのままだったので、りんご1個あたりの価格は100円まで下落しました。
これまでは、りんご生産業者はりんご1個を販売するだけで1万円の売上が上がっていました。
しかし今は1万円の売上を得るには生産したりんご100個すべてを販売しなければならなくなりました。
りんご100個すべてを売り切る保証はないうえに、単純に原価(人件費や設備投資)が上がった分だけりんご業者の利益は圧迫されることになります。
そうなれば、りんご業者は社員の給料を減らしたり、社員を解雇して帳じりを合わせることになります。
つまり、物価の下落する世の中ではそもそも投資や求人をして事業を拡大することは非合理的となり、投資や雇用の悪化によって消費も停滞していますのです。
これはとても極端な例えですが、こんな流れから物価の下落(デフレーション)は雇用情勢の悪化につながるのです。
反対に、インフレーションの世の中では企業などの生産者の利益は上昇して、雇用情勢が改善します。
そうして国内の失業率や賃金が改善すれば、人々の所得は増えて、消費が活発になり、経済は活性化するのです。
金融政策の注意点
金融政策をおこなう上での注意点は2つあります。
①:過度な金融引き締めによるデフレ
②:過度な金融緩和によるハイパーインフレ
①:過度な金融引き締めによるデフレ
1989年の株バブル崩壊以降の日本は、デフレ不況によって苦しめられました。
この日本のデフレ長期停滞期は『失われた20年』と呼ばれています。
デフレからの脱却方法は、前述したとおりで金融緩和政策によって資金供給量を増やすことで国内の需要を『お金<物』に導くことです。
②:過度な金融緩和によるハイパーインフレ
そして、もうひとつは黒田日銀による量的質的金融緩和政策でも大きな批判の対象となった▶︎ハイパーインフレの発生です。
ハイパーインフレの定義
インフレ率が3年で物価が2倍(国際会計基準)
ハイパーインフレとは、モノの供給量に対してお金の供給量が大幅に上回り、物価が高騰しすぎてしまう経済現象です。
そこで金融政策で雇用情勢を活発化させながらハイパーインフレを抑制する方法としてインフレターゲット政策が採用されました。
インフレターゲット政策
ここで改めて、冒頭に説明した金融政策の最大の目的を確認しましょう。
金融政策の最大の目的は雇用の最大化です。
つまり、雇用の最大化を実現できるインフレ率が金融政策で目指すべき目標であり、この数値を超えるインフレ率は過度なインフレ(国民を豊かにしないインフレ)ということです。
この雇用を最大化できるインフレ率の下限はNAIRUと呼ばれ、日本ではインフレ率が約2%(失業率2%〜2.5%の完全雇用を実現できるインフレ率)をといわれています。
つまり、▶︎インフレターゲット政策はインフレ率がNAILU(雇用を最大化できるインフレ率の下限)におさまるように金融政策を調節することで、経済を拡大して国民を豊かにする目的があるのです。
また、金融緩和によって2%前後のマイルドなインフレをつくり経済を拡大させる政策を、リフレーション政策と言います。
それでは最後にもう少し踏み込んで、金融緩和がデフレ経済の脱却につながる波及経路を解説します。
画像:岩田規久男元日銀副総裁講演資料をもとに作成
中央銀行がマネタリーベースの拡大とともにインフレ目標の達成にコミットメントをすることで、市場にはインフレ予想(予想インフレ率の上昇)が形成されます。
インフレ予想が形成されると世の中の投資家や企業が、『これからインフレが来る』と予想して投資活動を強めることで、株価などの資産価格が上昇します。
また、マネタリーベースの拡大は自国通貨の希少性を縮小させるため、為替が円安に傾きます。
資産価格の上昇は、国内の消費や投資を促進させて、為替レートが円安に傾くことで輸出企業の利益が拡大します。
このような流れから、企業の利益拡大や投資活動の増大を通して求人数や賃金が上昇します。
雇用の改善から国内の所得が拡大することで消費が拡大し、はじめて物価が上昇するのです。
金融政策と資産運用
金融政策への理解は、資産運用を行う上では欠かせないくらいに重要ですから、その関係性をわかりやすく解説します。
おさらいですが、インフレ経済では物価があがり、現金の価値が下がります。
言い換えるとインフレ経済は、現金を保有していても損をしてしまう環境なのです。
ですから、インフレ経済では現金から金融資産に形をかえる資産運用をする事で、好景気の恩恵を受けられるのです。
結論からいえば資産運用の成功の秘訣は、金融政策の転換点をおさえることです。
資産運用には、資産を安いうちに買って高いときに売るという大原則があります。
デフレ・・・資産価格が安く放置されている
インフレ・・・資産価格が高値で取引されている
もうお分かりでしょう。
金融政策の転換点は、物価(資産も含む)が大きく変動しますから、資産売買の最良のタイミングと一致するということです。
実際に大胆な金融政策の実施によって、株価や不動産価格は急騰して為替は大きく円安に転換したことは前述したとおりです。
※詳しくはリンク記事を参照ください。
画像:アベノミクスによる日経平均株価の急騰
この資産価格の転換点を見極めるもっとも重要なポイントが、中央銀行による金融政策なのです。
金融政策の把握
それでは、どうやってこの金融政策の転換点を察知すればいいのでしょうか?
日本の金融政策の方向性を確認するに重要なポイントを紹介します。
①:日銀政策決定会合
日本では日銀政策決定会合が年に8回にわたって開催されており、現状の経済状況に照らし合わせた金融政策の方針が決定されます。
この会合によって、金融政策の大部分が決定され、資産市場に一定の影響力をもっています。
特に、アベノミクス開始時に黒田晴彦日本銀行総裁が、量的質的金融緩和の導入を発表した時は資産価格が急上昇し『黒田バズーカ』と呼ばれました。
②:マネタリーベースの変化
本記事をここまで読んだ方は、世の中のお金の量(マネタリーベース)が物価や資産価格に与える影響を理解されていると思います。
実際に、マネタリーベースと日経平均株価は相関関係にあります。
画像:SBI証券/マーケット
これはアベノミクス前後(大胆な金融政策が開始された後)からのマネタリーベースの量と日経平均株価の推移です。
明らかにこの2つは似た動きをしていることが見てとれます。
2015年以降にややマネタリーベースと日経平均株価が連動してないように見えますが、これにはもうひとつの重要な政策の影響があります。
それは2014年、2019年と2回にわたって実施された消費税率の5%→10%への引き上げです。
資産価格にとって、金融政策の次に重要な確認事項が、消費税率などを含む財政政策なのです。
③:財政政策の変化
中央銀行がおこなう金融政策に対して、財政政策は日本政府によっておこなわれます。
シンプルに言えば、財政政策の確認のポイントは、政府が税収や国債の発行によって得たお金をどうやって使うか?また、どのくらい使うか?というという点です。
積極財政=大きな財政支出=株高
緊縮財政=小さな財政支出=株安
前述した消費税の引き上げは緊縮財政に分類されますから、株安要因となります。
消費増税は、財政支出ではありませんが国内のお金の流れに対する税負担の増額は市場からのお金を回収する形で経済活動を圧迫させます。
つまり国内の取引が縮小して、企業利益が減退しますから、株価などの資産価格も下落するというしくみです。
つまり資産運用をする上では、金融政策と一緒に財政政策を確認しておくこともおすすめします。
今までの財政支出よりも増額していたり、減税政策であれば株高要因となり、財政支出が縮小していたり増税政策があれば株安要因といった形です。
財政支出は、財務省のホームページ(下記リンク)から確認できます。
まとめ
それでは最後に、本記事の内容を7つのポイントにまとめます。
さらに詳しく知りたい方は、リンク記事をご覧ください。
①:金融政策とは世の中のお金の量を調節することで物価や景気を調整すること
②:金融政策の最大の目的は雇用の最大化
③:雇用を最大化させるインフレ率は2%前後
④:インフレ率2%前後を維持するための政策がインフレターゲット
⑤:資産はデフレ期に買い、インフレ期に売る
⑥:金融緩和と積極財政は株高
⑦:金融引き締めと緊縮財政は株安