・メリットや問題点を知りたいです!
本記事はこんな疑問を解消します。
本記事の結論
・EU誕生の目的はヨーロッパの結束
・EUの問題点は『アイデンティティ』
・結果として国家間の格差が生まれる
そもそもEU(欧州連合)とは?
EU(欧州連合)とは、EC(欧州共同体)を基礎に、外交・安全保障政策の共通化と通貨統合の実現を目的とした自由貿易経済圏です。
画像:EU参加国一覧
2020年にイギリスがEUを脱退してからEUは27カ国が加盟しています。
2022年3月現在、アルバニア・北マケドニア・モンテネグロ・セルビア・トルコの5カ国が加盟候補国となっています。
また、2022年に勃発したロシアによるウクライナ侵攻を受けて、ウクライナと同国周辺のジョージア、モルドバが立て続けに加盟を申請しました。
EU誕生の理由
EUが誕生した理由は以下の2つにあります。
EU誕生の理由
- ヨーロッパを平和な地域にする
- アメリカやソ連などの経済大国に対抗するため
ヨーロッパにEU(欧州連合)が生まれた背景には、中世以降のヨーロッパの歴史が存在します。
100年戦争
画像:Wikipedia100年戦争
フランス革命
このようにヨーロッパでは、民族や宗教間の長く壮絶な争いが続いてきましたが、1945年に第2時世界大戦が終結します。
大きな戦争によってヨーロッパの国々の至るところが焼け野原となり、人々は困窮しました。
さらに追い討ちをかけるかのように始まったのがアメリカとソビエト連邦が対立する冷戦でした。
今にも第三次世界大戦がはじまりそうな険悪な世界情勢のなか、ヨーロッパでは各国の結束を望む声がではじめました。
そうしてアメリカ合衆国とソビエト連邦の2つの軍事大国に対抗しうる経済圏を作るためにEUの元となる組織『ECSC』が設立されたのです。
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EU誕生への経緯
それではECSCの誕生からEUまでの変化を時系列で確認してみましょう。
EU誕生までの経緯
- 欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が発足(1952)
- 欧州経済共同体(EEC)と欧州原子力共同体(Euratom)が発足
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EECとEuratomが欧州諸共同体(EC)として統合(1967)
- 欧州連合(EU)が誕生(1992)
EUが設立された目的は、ヨーロッパ地域における不毛な争いの歴史に終止符を打つためでした。
このような経緯から1992年、ついにEU(欧州連合)が誕生したのです。
EUのルール
EUには、加盟するには大きく3つのルールが存在します。
EU加盟のルール
- 共通通貨EURO(ユーロ)の使用
- 国家間の自由な移動
- 関税の撤廃
ひとつづつ解説します。
①:共通通貨ユーロ(EURO)の使用
EUに加盟すると、共通通貨であるユーロを国内の取引においても使用しなければいせません。
◼︎ユーロ圏 ◼︎欧州連合非加盟のユーロ使用地域
画像:Wikipediaより引用
ユーロ圏国家
- オーストラリア
- ベルギー
- キプロス
- エストニア
- フィンランド
- フランス
- ドイツ
- ギリシャ
- アイランド
- イタリア
- ラトビア
- リトアニア
- ルクセンブルク
- マルタ
- オランダ
- ポルトガル
- スロバキア
- スロベニア
- スペイン
- クロアチア(2023年1月)
赤文字はG7国家
この他のEU加盟国である英国、デンマーク、スウェーデンは、国内世論の支持がえられずにユーロ通貨の導入を見送りました。(将来的にはユーロ導入の義務があります)
2022年現在ユーロは、世界の通貨取引高で第2位に位置しています。
②:パスポートなしで国家間を移動
EU(欧州連合)にとって、人の移動の自由は大切な基本理念の一つであり、それを支えているのがシェンゲン協定です。
シェンゲン協定
ヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を越えることを許可する協定のこと
シェンゲン協定は1985年、EUの前身である欧州経済共同体に加盟する5カ国(西ドイツ・フランス・ベルギー・オランダ・ルクセンブルク)で、人の自由な移動を定めたものが始まりです。
シェンゲン協定の目的は域内の自由移動を進めることで経済的な結びつきを強めることでした。
ただEU加盟国の国民は、自由に圏内を移動できる一方で、国境や民族のアイデンティティが存在しています。
この各国民のアイデンティティは、後述するEUの問題点につながるのです。
画像:Wikipediaより・オランダとベルギーの国境
③:加盟国との貿易関税の撤廃
関税撤廃を行う自由貿易は、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)やFTA(自由貿易協定)など、世界各地の経済圏において実施されています。
基本的には自由貿易は、国家間の取引を活性化させて各国にwin-winの関係を成立させます。
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しかし、ここで問題点が浮上します。
本来は自由貿易をうながすために、各国の中央銀行は金融政策をつかって自国通貨を調整し、自由貿易の効果を最大限にひきだす政策を行います。
ところがEU加盟国は、ユーロという単一通貨に縛られている為に自国通貨の供給量をコントロールすることができません。
通貨の統一は金融政策の統一となり、加盟国それぞれが自由な金融政策を捨てることを意味するのです。
国家は、金融政策(通貨供給量の調節)によって景気をコントロールが、通貨を統一したユーロ圏内の国々では、金融政策の自由が効かないのです。
これが、次に説明するEUの大きな問題点にリンクしていきます。
EUの問題点
EUには、大きな2つの問題点があります。
EUの問題点
- 移民問題
- 金融政策の問題
それぞれ解説しますね。
EUの問題点①:移民問題
2016年6月、EU加盟国であるイギリスの国民投票によってイギリスのEU加盟国からの脱退が決定しました。
イギリスの世論がヨーロッパの理想の元に結成された統合経済圏からの離脱に向かった背景には、移民問題が存在します。
なぜなら人の往来が自由になったEUでは、賃金の安い国から高い国への人の移動が起こるからです。
2004年から2015年の約11年間でイギリスに入国した移民が100万人から300万人へと激増したのです。
物価の低い国から来た移民の方が低賃金で雇えますから、イギリスの国民は多くの職を移民に奪われることになります。
これは仕事だけに留まらず、移民は社会保障や教育面など、イギリス国民と同等の福祉を受けることができたのです。
こうしてEU経済圏はイギリス国民にデメリットをもたらすように認識されていきました。
2015年頃からイギリス国民の中には、EU離脱への気運が高まってきました。
もともとEUには国境のボーダーラインを低くして、最終的には一つの国家と同等の共同体を作るという目的があります。
しかし、この移民問題から各国民の自国民としてのアイデンティティが浮き彫りとなりました。
ヨーロッパの各国民にとって宗教観、民族観などのアイデンティティを消し去ることは非常に困難であるといえます。
移民を自国民と同等に扱う事がEU共同体の理想である一方、イギリス国民の前には理想と現実とのギャップが立ちはだかったのです。
EUの問題点②:金融政策の問題
EUの問題の根底には通貨を統一しても政治(国家)が統一出来ない現実が存在します。
具体的な例を挙げれば、各国の金融政策です。
通常、国は経済状況を見ながら金融政策によって自国通貨の供給量を調節して景気をコントロールします。
【日本の金融政策】
例えば、日本では日本銀行が金融政策によって発行した円で、日本国内の民間銀行が持つ日本国債を買いとる形で円が市場に流れます。
【EUの場合】
一方EUでは通貨をユーロに統一し、発行権は中央銀行ECB(ヨーロッパ・セントラル・バンク)にゆだねられています。
この中央銀行が通貨を発行する際に問題が起こります。
それはEU加盟国への通貨供給量をどのように配分するか?という問題です。
前述のとおり、中央銀行が発行した通貨を市場に供給する場合、金融機関が持つ国の発行する債券(国債)を中央銀行が買いとる形で発行通貨を供給します。
しかしEUの場合は、通貨はユーロとして統一していますが、国家はバラバラです。ですので、どの国からどれだけの国債を買い取るのか?(どの国にどれだけユーロを供給するか?)という問題に突き当たります。
通貨の供給を平等に統一すれば、国力の差によって国家間の格差が助長されてしまいます。
最近のドイツとギリシャを例にします。
ドイツは常に財政黒字を計上する一方で、ギリシャは破たん寸前でした。
EUの理想はドイツが自らの利益を犠牲にしてでもギリシャを救うことでが、当然ながらドイツ人の国民感情(アイデンティティ)がこれを拒んでしまいます。
『なぜ私たちドイツ国民が、怠け者のギリシャ国民を助けなければいけないのか?』
この時に、国民感情、アイデンティティが邪魔をするのです。
一方で、金融と財政が統一されている普通の国、例えば日本を例にとって正常な状態を考えてみます。
財政が切迫されているA県と、毎年黒字を計上しているB県があるとします。このときに、B県は地方交付税という形でA県を助けることが出来ます。
この助けに反対する日本国民はあまり見かけません。
それは、日本国民は同じ言語で同じ民族であるという潜在的なアイデンティティを持っているからです。
このように、EUでは、設立当初から少々無理がある形で経済統一が行われました。
その歪が、ギリシャの破綻をはじめとする経済格差に少しづつ現れてきているのです。
イギリスEU離脱の影響
それでは最後に、2020年末に正式に実施されたイギリスのEU離脱がイギリス、EU、そして日本に与える影響について考えてみます。
①:EU離脱がイギリスに与える影響
イギリスが国民投票によってEUからの離脱が発表されたとき、世界の株式市場は先行き懸念から大暴落しました。
実はイギリスに限っては今回のEU離脱がマイナスにはたらく公算が大きいのです。
それはイギリスはそもそもユーロ通貨に加盟しておらず、ポンドで取り引きしていたため言ってみればEUの『いいとこ取り』をしていました。
これが、移民の流入によって国内感情がEU離脱に傾いたわけですが、移民の流入を止める方法がEU離脱であったことはイギリス経済にとってもマイナスの公算が大きいでしょう。
金融財政政策の自由と大きな自由貿易圏も放棄してしまったからです。
②:EUに与える影響
イギリスのEU離脱がEUに与える影響は、イギリス自身が被る悪影響ほどは大きくありません。
しかし、イギリスのEU離脱が世界経済に与える悪影響が短期的には大きいと試算されていることから、EUに与える影響も無視はできません。
とはいえイギリスのEU離脱が決定した時にささやかれていたイギリスと世界経済への悪影響がかわいく見えるくらいの経済ショックが新型コロナウイルスの感染拡大によってもたらされました。
ここからのEUとイギリス経済は、いかに大胆にコロナ経済対策を打てるかにかかっています。
③:イギリスEU離脱の日本に与える影響
イギリスのEU離脱は日本にとっては実は良かった側面が2つあります。
日本にとってのメリット
- イギリスがTPPへの加盟申請を表明したこと
- イギリスとの高いレベルのEPAを締結できたこと
それぞれ解説しますね。
①:イギリスのTPP加盟申請の表明
EU離脱後に自由の身となったイギリスは2021年1月に、日本が主導する経済連携協定TPP(環太平洋パートナーシップ協定)への加盟申請することを発表しました。
日本にとってのTPPは、中国やロシアを意識した安全保障の観点からも極めて重要な施策であり、ヨーロッパの先進国であるイギリスが参加を表明したことは日本にとっては大きなメリットとなります。
またイギリスは日本が進めるインド太平洋での枠組みである自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)にも積極的に協力しています。
②:イギリスとのEPA締結
イギリスのEU離脱が実施された翌日の2021年1月1日に、日本とイギリスでの単独のEPA(経済連携協定)が締結されました。
このEPAは従来の日本とEUが結んでいた協定よりもさらに高いレベルで締結された分野もあります。
たとえば電子商取引の分野では、ビジネス上必要な企業のデータのやり取りに対する制限の緩和などが実施されて、両国にとってメリットがある内容となっています。
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EUの問題のまとめ
それではEUの問題点を2つにまとめます。
EUの問題点
- アイデンティティや国家的利益が異なることで国家間格差が拡大する
- 統一通貨ユーロによって金融政策の自由度が少ないこと
上記の根本的な問題があるために、次のような問題も出てきます。
- 稼げる国への移民の増加
- 財政破綻する国家が増加
自由貿易協定には多くのメリットがありますが、通貨を統一する以上は、アイデンティティや国家財政を統一できなければ格差は拡大するでしょう。
イギリスの離脱が実現した今、今後のEUの動きに注目しています。