・インフレーションって何ですか?
・インフレはなぜ起こるの?
・インフレへの対策方法を知りたいです!
本記事はこんな疑問を解消します。
本記事の結論
- インフレとは物価上昇が続くこと
- インフレのメリットは雇用の改善
- 物価は物量と通貨量のバランスで決定
目次
インフレーションとは?
インフレーション(インフレ)とは下図のような物価の上昇が持続的に発生することをいいます。
インフレは、言いかえればお金の価値が持続的に下がることです。
下図のようにインフレ期では、一万円札の価値が物価の上昇にともなって下がっていくのです。
結論からいえば、行き過ぎないインフレであれば圧倒的にインフレ経済の方にメリットが多くあります。
それはインフレ経済では雇用や消費が改善するため経済が成長するからです。
たとえば日本の戦後の高度経済成長期も、インフレ経済とともにありました。
高度経済成長
1955年~1973年までの19年間で日本に起こった経済の高成長期のこと。GDP(国内総生産各国が年平均で10%もの成長を続けた。
インフレーションを判断するには消費者物価指数(CPI)が使用されます。
消費者物価指数は総務省統計局がリンクのホームページにて毎月発表しています。
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インフレの原因は?
インフレの原因は大きくわけて2つあります。
インフレの主な原因
- お金の発行量が多い
- 生産力の低下
- 輸入品の高騰
それぞれ解説しますね?
①:お金の発行量が多い
基本的にインフレは下図のように世の中のお金の量がモノの量に対して多く出回っている時におこります。
それは、お金の量が増えると世の中の需要がモノに向かうからです。
需要がモノに向かえばモノの価格は上がるため、継続してお金の量が増えている世の中ではインフレに向かうのです。
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②:生産力の低下
一方で、世の中のモノやサービスの量がお金の量に対して不足することでもインフレは発生します。
たとえば戦争や災害によって国の生産力が大きく毀損した時にはハイパーインフレに陥ってしまうケースがあります。
第2次世界大戦後の日本も深刻なモノ不足によって約300%の物価上昇率を記録しました。
前後のハイパーインフレは日本だけではなくドイツやハンガリーなど歴史的にも多くの国では見られています。
③:輸入品の高騰
海外からの輸入品の価格が高騰することでインフレが起こることがあります。
特にエネルギーなど資源の輸入価格が上がってしまうと国内全体の生産コストが上昇するため幅広くインフレが発生します。
これをコストプッシュ型のインフレと言います。
たとえば2022年に勃発したロシア・ウクライナ戦争では西側諸国がロシアに経済制裁を発動し、ロシアの天然ガスの輸入を制限しました。
この経済制裁によって、エネルギーをロシアから依存していた欧州などでは高いインフレ率を記録したのです。
これらのインフレは、国内の生産力や輸入量が減ったことでモノやサービスに希少性が生まれてたことで発生したといえます。
インフレのメリット
インフレのメリットは、大きくわけて2つあります。
インフレのメリット
-
雇用が改善する
- 経済が成長する
それぞれ解説しますね。
①:雇用が改善する
インフレーション下では雇用情勢が改善します。
なぜならインフレ経済では国内の需要がモノやサービスに向かうことで消費行動が活発化して企業の売上や利益が増加するからです。
そうなれば企業のもつ資金は、生産力を高めるための設備投資や人材投資に向かいます。
結果として失業率の改善や賃金の増加がおこって雇用が改善するのです。
③:経済が成長する
基本的にはインフレーション下では経済が成長します。
経済成長とはGDP(国内総生産)が拡大することを指します。
インフレによって国内の消費が活発になり企業の売上が上がり、GDPが拡大して経済が成長するのです。
国内の売り上げが上がるということは消費が活性化して、国民の所得も増加します。
そのしくみは、売り上げと消費と所得が等しくなる原則を三面等価の原則よって説明できます。
三面等価の原則 一国の経済において生産(付加価値)分配(所得)支出(需要)の3つの側面でみた額が等しくなること
つまりインフレ経済では、企業の売上や消費、国内所得が上昇して、国内は豊かになるといえるのです。
GDPが拡大すると税収が増えるため、国内インフラの改善や安全保障の強化につながりますよ。詳しくは下記の記事をご覧ください。
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インフレのデメリット
インフレには大きく分けて2つのデメリットがあります。
インフレのデメリット
- 現金の価値が下がる
- ハイパーインフレによる経済停滞
それぞれ解説しますね。
①:現金の価値が下がる
前述したとおり、インフレはモノの価値が上がりお金の価値が下がる現象のことです。
つまり現金のままで持っているとお金の価値は低下することになります。
一方でインフレ期には株や不動産、外貨などの資産価格が上昇する傾向にあります。
そのためインフレ経済では現金を株式や外貨などの資産にかえて運用することでインフレによる損失を利益に変えることができます。
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②:ハイパーインフレによる経済停滞
2つめのデメリットは、過度なインフレが起こった場合の経済停滞です。
行き過ぎたインフレであるハイパーインフレでは現金の価値が下がりすぎてただの紙切れのようになり、あらゆる物が国民に行き渡らなくなってしまいます。
そのため中央銀行は経済がハイパーインフレに陥らないように金融政策によってお金の量をコントロールする必要があるのです。
経済政策によるインフレ対策
マクロ経済政策によるインフレへの対策には主に2つあります。
インフレ対策
- インフレターゲット政策
- 財政政策
それぞれ解説しますね。
①:インフレターゲット政策
ひとつ目はハイパーインフレのリスクを低下させるための金融政策の手法のひとつ『インフレターゲット政策』を実施することです。
インフレターゲット政策とは、適正なインフレ率の目標を設定して、それに向けて金融緩和や金融引き締めなどの金融政策をおこなう政策です。
適正なインフレ率を定義するとすれば雇用が最大化するインフレ率です。
このインフレ率の下限を『NAIRU(ナイル)』とよび、日本ではインフレ率が2%前後に達すると完全雇用の状態になると言われています。
完全雇用
労働の意思と能力のある者がすべて働いている状態のこと
これはインフレ率が2%を超えても雇用はそれ以上には良くならずにインフレだけが進んでしまうことを意味します。
インフレターゲット政策はインフレ率をNAIRUに到達させるとともに、インフレ率が大きく超えないように金融政策をコントロールします。
これによって、経済に悪影響をおよぼすハイパーインフレを防ぐことができるのです。
②:財政政策
2つ目のインフレ対策は財政政策によっておこなうもので、国内の生産力を上げたり低所得者層を保護するための財政支出をおこなうことです。
国内の生産力が足りない場合には政府が生産力を高めるための積極的な投資をおこなう必要があります。
またインフレによってダメージを受ける低所得者世帯や値上がり品目に対して減税や給付金支給をおこなうことで再分配をする必要があります。
さらには過度なインフレを起こしている分野に増税をするなどの対策をして税制を調整することも必要です。
マクロ経済でインフレ率を調節する際には金融政策を主として実施し財政政策を補助的におこなうことが重要です。
日本のインフレ率
それでは日本のインフレ率の推移について解説します。
画像出典 世界経済のネタ帳
これは1980年から2021年までの日本のインフレ率の推移です。
90年代以降の日本のインフレ率は極めて低く、0%を切るデフレ型の不況に悩まされました。
このバブル崩壊以降の日本の経済停滞は『失われた20年』と呼ばれています。
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世界のインフレ率
次は世界と見比べてみましょう。
これは、先進主要国のインフレ率の推移をグラフ化したものです。
たしかにどの国も高度成長期にくらべてインフレ率の伸び率こそ低下して来ていますが、インフレ率が明確にマイナス圏に突入したのは日本だけなのです。
これは日本銀行による金融政策がうまく機能していなかったということです。
金融政策とインフレ
それでは中央銀行がおこなう金融政策とインフレの関係について解説します。
金融政策の波及経路
順番に解説しますね。
①:通貨量の拡大
インフレを形成したい時には中央銀行が国内の通貨の量を拡大します。
以前は政策金利の操作によって通貨の流通量を操作していました。
しかし長引くデフレによって金利の操作だけではインフレを形成することが困難となり、新しく導入された方法がマネタリーベースの拡大です。
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②:資産価格の上昇
株式市場は金融緩和のアナウンスにいち早く反応します。
インフレと資産価格の上昇はセットで発生するため株式市場で売買する投資家が先読みして株式を購入するため株価が上昇します。
また2013年から開始された大胆な金融政策である『量的質的金融緩和』では日本銀行が日本の株式(ETF)を大量に購入したことで資産価格の上昇を後押ししました。
③:為替レートの適正化
資産市場と同じく金融緩和に反応するのが為替レートです。
金融緩和は世の中のお金(円)を増やすので為替レートが円安に傾きます。
実は自国通貨が安くなることは『近隣窮乏化政策』とも言われるほどメリットが多くあります。
近隣窮乏化政策
為替レートの変動などを通して貿易相手国に失業などの負担を押しつけることで自国の経済回復と安定を図ろうとする経済政策のひとつ
為替レートの円安は製造業の国内回帰を促したり輸入品の価格上昇によって国内産業が改善につながります。
このような経緯で自国通貨安は国内の雇用情勢を改善させるのです。
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④:消費・投資・収益の増加
資産価格と為替レートが変動すれば、国内の消費・投資・そして企業収益の増加に直結します。
資産価格の上昇は投資の活性化に、また為替レートの適正化は企業収益の増加につながり、収益をあげた投資家や企業が消費の拡大を先導します。
やや理論的に言えば、金融緩和によって予想インフレ率が上昇するため国内の消費や投資、収益の増加につながるのです。
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⑤:雇用の改善
資産価格や企業収益の上昇は、失業率の改善や賃金の上昇などの雇用情勢を大きく改善させます。
これは日経平均株価と半年先の就業者人数の推移をグラフ化したものです。
株価が景気の先行き指標として動き、しばらくしてから実体の経済に影響していることが見てとれます。
株価が上がれば企業は人的な投資を増やすため雇用情勢が改善されるのです。
⑥:物価の上昇
雇用の改善とほぼ同時に起こることが物価の上昇です。
賃金や就業者人数が増えると、国内の消費はさらに拡大することとなります。
そうなれば国内の企業は人的コストなどが増大するなかでも利益を確保しようと値上げに踏み切ります。
国内の多くの企業が値上げに踏み切ることで物価が上昇してインフレが起こるのです。
個人のインフレ対策
個人ができるインフレ対策は大きくわけて2つあります。
個人が活用できるインフレ対策
- 資産運用を始める
- 転職をする
それぞれ解説しますね。
①:資産運用を始める
前述したとおりインフレ経済では現金の価値が目減りする一方で、株式や不動産などの資産価格が上昇します。
これは、インフレ下では現金を持っているだけでは損をしてしまうため、現金をなんらかの資産に変えて運用する企業や人が増えるためです。
つまり、インフレ下では現金を投資信託や株式などの資産に変えて運用することが合理的に個人としてできるインフレ対策となるのです。
資産運用の方法は大きく3つにわけられます。
資産運用の方法
- 株式への投資
- 不動産への投資
- 通貨への投資
それぞれ解説しますね。
①:株式への投資
資産運用として多くの方が思い浮かべるのは株式投資だと思います。
投資信託や積み立てNISA、iDeCoなども広義の株式投資に入ります。
また、厳密には違いますが国債や社債などの債券への投資も株式投資に似ている投資方法です。
購入して値上がり益を狙い、株式を持ち続けることで配当収入を得ることが可能です。
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②:不動産への投資
大きな額の資産を運用する場合には不動産投資がおすすめです。
土地やマンションを購入して値上がり益を狙います。
また、土地やマンションを人に貸すことによってインカムゲインを得ることができます。
③:通貨への投資
外国の通貨を購入して値上がり益を狙う方法としては、外国為替証拠金取引(FX)が人気です。
また最近では、どこの国にも属さない仮想通貨(暗号通貨)への投資も盛んで、代表的な通貨として『ビットコイン』が有名です。
②:転職をする
適切な金融政策がおこなわれたインフレ環境下では、雇用情勢が改善していきます。
下記は、日本の就業者数と労働力人口の推移です。
2013年から開始された大胆な金融政策によって急速に改善していることがわかります。
有効求人倍率も同じくして急速に改善し、2018年にはバブル期を超える数の求人が日本国内に溢れかえりました。
これは、インフレの売り手市場を活用してより好条件な職への転職の成功率が上がったことを意味しています。
売り手市場では、人手を確保するために給与や休日などの待遇をより好条件なものを提示する企業が増加します。
つまりインフレ経済では物価が上がる一方で給料も上がりやすい環境であることから、転職やスキルを磨いて稼ぐ力をつけることがインフレ対策につながるのです。
まとめ
①:インフレーションは世の中のお金の量が増えるか物の生産力が毀損されることで起こる
②:インフレ率がNAIRUまで上がれば雇用は最大化して景気が良くなる
③:バブル崩壊後の日本では金融政策の失敗によって持続的に物価が下落するデフレが起こった。
④:インフレ下では現金の価値が低下するため資産運用すると良い